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第3回

「屋根の雪下ろしは本当に必要?」

北海道科学大学工学部建築学科 准教授 千葉 隆弘


(2015.2.2)

 

近年、雪による死者・負傷者が毎年のように繰り返し報道されています。昨年度(2013年度)における北海道での雪による死者・負傷者は500名を超えており、東北地方や北陸地方に比べて多い傾向があります。雪による死者の内訳をみると、65歳以上の高齢者が半数を占めており、高齢化社会に伴う雪対策の脆弱性が表面化しています。また、事故の要因についてみると、「雪下ろし中の転落」や「はしごからの転落」が約半数を占めており、屋根の雪が事故の発生と深く関わっています。北海道では、例年、2月下旬から3月上旬頃に積雪が最も深くなることから、これからまだまだ降雪が見込まれ、除雪で苦労することが予想されますので、除雪中の事故に対しては余談を許さない状況が続きます。

 

2012年の冬期に、北海道岩見沢市とその周辺で豪雪となりました。岩見沢測候所における最深積雪は観測史上最深の208cmに達し、数多くの雪による事故が発生しました。一方、その年の札幌管区気象台における最深積雪は76cmであり、平年を大きく下回る状況でした。そこで、私たちは、岩見沢市から札幌市に向かって住宅地における除雪状況の調査を行いました。その調査で撮影した岩見沢市における屋根雪の状況を写真1および写真2に示します。写真のように、住宅の軒先には巨大な雪庇が形成されています。しかし、こうしたケースは少なく、写真2に示すように、雪庇のみが取り除かれているケースが数多く確認することができました。岩見沢市で調査対象とした住宅のうち、約7割は雪庇のみを取り除いていました。

 

写真1 軒先に巨大な雪庇が形成された様子
(北海道岩見沢市,2012年2月23日撮影)

 

写真2 雪庇のみが取り除かれた様子
(北海道岩見沢市,2012年2月23日撮影)

 

私たちが実施した調査から、雪下ろしを行う動機の一つが「雪庇」であることが明らかになったわけですが、一方で、大半の屋根雪は残していることから、雪の重さによる住宅の倒壊に対しては心配していないということも言えます。北陸地方の山間部に建てられている住宅では、積雪が3m近くにまで達することから、住宅の倒壊を免れるために雪下ろしを実施するのですが、北海道と北陸地方とでは雪下ろしの動機が大きく異なっていることも調査結果が示していました。

 

雪庇を軒先から取り除く際は、特に注意を払って頂きたいと思います。必ず、2人以上の体制で実施して頂きたいと思っています。それは、除雪中に雪庇を踏んで破壊してしまうと、そのまま地上へ落下するからです。雪庇は必ず軒先からせり出していることから、その真下は地上ということになります。最低でも1人は地上から雪下ろし作業者の位置を確認し、危険を知らせる必要があります。一方で、「本当に雪庇を取り除かなければならないのか」ということも考えなければならないと思っています。これは、ケース・バイ・ケースなのですが、「雪庇の落下が人や物に危害を及ぼす」、「雪庇の重さで軒先が損傷する」以外は雪庇を残しておく勇気も必要でしょう。住宅が倒壊するほど積もっていないのに、わざわざ大変危険な雪庇の処理作業を行う必要性があるのか・・・ということを真剣に考える必要があると思っています。また、このような雪庇を処理する、しないの判断材料を構築することが私たちに課せられた研究課題であります。

 

 


 

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